認知症になっても安心して暮せるまちへ。
地域の「環境」を整えていく。
まちづくりの舞台裏
2022-2
保健福祉長寿局 地域包括ケア推進本部
主任主事(福祉) 神尾 昌奈
平成23年度採用

福祉職として入庁。初めは事務仕事が中心だった。

大学では福祉について学び、「社会福祉士」の資格を取得しました。卒業後は、医療・介護施設のソーシャルワーカーになるという選択肢もありましたが、「多様な人が暮らす地域社会」という視点から福祉に関わりたいと思い、特定の分野に限定しない行政の福祉職を志望しました。受験当時は、静岡市で初めて福祉職の募集があり、私がその一期生になりました。

入庁して最初の配属先は、保育課(現:幼保支援課、こども園課)です。担当業務は市立保育園(現:こども園)の施設管理で、委託先業者との交渉、契約の事務手続、備品管理などのいわゆる「事務仕事」が中心でした。学生時代に想像していた福祉職は、「福祉の専門知識を活かして、具体的な支援に関する業務を行う」というイメージでしたから、かなりギャップがありました。ただ、ここでの学びがその後もずっと役立っていますで、欠かせない経験だったと思っています。

その後、保健所の精神保健福祉課に異動し、精神科病院の実地指導や障がい者支援団体の補助金関係などの業務を担当しました。ここでも事務仕事中心でしたが、仕事を通じて、断酒会や精神障がい者家族会の方々との交流がありました。この頃は、一人の社会福祉士としては、熱意ある団体をもっと応援したいと思いながら、行政として法令の枠内で公平に支援しなければならず、その部分で葛藤することもありました。

次に、清水福祉事務所の子育て支援課に異動になりました。児童や家庭に関する様々な相談に応じ、必要な支援につなぐことが主な仕事です。生活困窮やDV、虐待などのほか、ご家庭によっては障がいや介護などの事情も抱えていることもあり、幅広い知識と共に様々な支援機関と連携するスキルが必要でしたが、何より大切だったのは“どこまでも相談者さんに寄り添う姿勢”でした。支援やサービスは、信頼関係があってはじめて、相手に届くのだということが良く分かりました。何度も訪問し、何時間も話してようやく一緒に課題解決に向けて考えられるようになったとき「あのときにあなたと会えて良かった」と言われて、とても嬉しかったことを憶えています。

認知症になっても安心して暮せる地域づくり

現在は、保健福祉長寿局の地域包括ケア推進本部で主に認知症施策を担当しています。
静岡市は認知症施策に力を入れており、令和2年10月、中心市街地に「静岡市認知症ケア推進センター“かけこまち七間町”」を開設しました。かけこまち七間町は、認知症の方やその家族への総合的な支援を行う中心拠点であり、専門職による認知症の相談、脳の健康度チェック、認知症予防や認知症に関する普及啓発のためのイベント開催などを行っています。

認知症施策の中でも、私が主に担当しているのは「チームオレンジ」の立ち上げと運営支援です。オレンジは認知症の普及啓発のシンボルカラーです。「チームオレンジ」は、地域で暮らす認知症のご本人やご家族も含めた住民と、地域の企業や商店といったその地域に関わる人々がチームとなり“認知症になっても安心して暮らせる地域づくり”の活動に取り組みます。令和3年度に本格的に始まったばかりで課題もありますが、地域で暮らす認知症の当事者の声を大切にしながら、それぞれの地域の良さを生かしたチーム活動が立ち上がるよう自分なりに取り組んできました。そのほか、認知症の方が行方不明になった場合を想定した捜索訓練や、認知症に関する広報、講座の企画運営などの業務にも携わっています。

支援の「仕組み」や「環境」を整えていく、仕事。

福祉職というと、困っている人を直接的にケアするというイメージがあるかもしれません。しかし行政の福祉職には、法令に基づいて、支援が必要な人たちをサポートするための「仕組み」をつくったり、「環境」を整えたりする役割が求められます。

現在私たちが目指している「認知症になっても安心して暮せる地域づくり」も、あくまでも主体は地域の人たちであり、行政は「地域の人たちに認知症を自分ごととして理解してもらい、行動しやすい仕組みを整え、サポートする」ことしかできません。地域の人たち自身の思いとして行動してもらえるまでが難しいところですが、こうした場面でこそ福祉職としてのソーシャルワーク技術が必要なのだと思います。

私は、入庁した当初、福祉の専門性を必要としない事務仕事ばかりに戸惑っていました。しかし、支援が必要な人たちをサポートするには、福祉の知識だけでなく、市民生活に関わる全般の知識、福祉関係以外の法令の知識などが欠かせません。また、福祉関係以外の部署との横断的な連携も必要ですが、このとき、福祉の価値観だけで物事を見ていると、却って連携を阻害することもあります。

行政の福祉職は、福祉のスペシャリストというより、困難に直面している人たちに最適な支援を届けるために、幅広い行政経験と知識に基づく多角的な視点を持つ、ゼネラリストになるべきかもしれません。
福祉職を志望する方は、学生時代のうちに様々な人たちと関わり、多くの経験をして、多種多様な価値観に触れてください。それは、きっと将来の仕事に役立つはずです。

神尾 昌奈さんの配属先

平成23年度~24年度
保育課(現:幼保支援課、こども園課)

平成25年度~27年度
保健所 精神保健福祉課

平成28年度~30年度
清水福祉事務所 子育て支援課

平成31年度~
現所属

※掲載職員の所属・職位は令和4年3月現在のものです。

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